執事が男に変わる時
彼の豹変
無表情で出迎えた海藤を完全に空気のように扱い、ソファに座り込み指先で唇に触れる。

店を出るときに塗り直したグロスは跡形もなく、婚約者の唇を思い出させる。

彼と出会ってから初めての心臓の高鳴り。これがキスという行為になのか、彼に対してなのかはわからなかった。

以前海藤から神経を落ち着かせる作用があると聞いた、少しスパイシーなマジョラムの香りが漂ってきたが、私は口を付けずに立ち上がった。

地に足がついていないような感覚で、壁際をよろよろと進む。

とりあえずシャワーを浴びて、それから考えよう。そう思った時。

ドンッ!!

突然目の前に腕が現れた。見慣れた執事服の……海藤の右腕。
次の瞬間彼の左手によって、私の背中は壁に強く押し付けられる。

彼が私に乱暴なことをしたことは今まで一度もない。空気が一瞬にして張りつめた。

「な……に?」

恐怖なのか緊張なのかわからない感情に声が掠れる。

「唯様、上の空ですがどうされたのですか?」

「海藤には関係ないでしょ」

大きな声を出したつもりが、自分の声のか細さに戸惑う。鼓動はかつてないぐらいのの速さで打ち始める。
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