姉の身代わりでも
さよならの代わりに




翌日、後輩や同僚にはすごく驚かれた。それはそうだと心の中で苦笑いをする。

今までコンタクトをしてたし、いきなりダサい黒ブチメガネなんてしてたら。

流行りのゆる巻き茶髪が黒髪のショートに、メイクも気合い入れたがっつりからナチュラルという名の手抜き。別人と言われても無理はない。


あまり会いたくなかったけど、仁史に書類を持って行ったら流石に驚かれたらしく、二度見された。そりゃそうか、彼にとって私は、=姉だったから。


けど、それもおしまい。


身代わりの役割を終えた代用品は、何もかもを本物に譲る。


ケータイ番号もメアドも、知らない。メッセージアプリのやり取りすらない。そんな無意味な私が、これ以上仁史にまとわりついては彼女の迷惑になるだろう。


でも、せめて。


私がいた痕跡を完全に消すための掃除をした後に、仁史が好きな料理のレシピをプリントしたファイルをそっと置いた。手書きだと女性とバレる恐れがあるから。


(さよなら……)


二度と私的に会わないであろう幼なじみに、心の中でだけ呟きアパートを後にした。


< 8 / 11 >

この作品をシェア

pagetop