最後の日
 重い。
 手に持って見て予想以上の重さに驚く。紙袋の中には色紙や包装されたストール、皆で撮った写真の入った写真立てに加えて何故か保冷ケースに入った酒の瓶まで入っている。酒好きの中村部長からの贈り物だ。
 私物を詰め込んだ自分の鞄にこの紙袋。おまけに結構ゴージャスに作られた花束を抱えるとなるとかなりの大荷物になるけれど、今日ばっかりは置いて帰るわけにもいかない。まだコートが必要な季節じゃないのは幸いだった。

 気合を入れて全てを手に持ちエレベーターホールまで一息で運ぶと、それだけで手が痺れた。とてもじゃないけれどずっと持ってはいられないので、一度紙袋を足元に下ろす。
 二台あるエレベーターは生憎と両方下に降りてしまったばかりだった。
 次第に下がって来ていた花束を抱え直して、細いはめ込み窓から見える見慣れた景色を眺める。
 三年前に移転したオフィスは高層ビルの上階を二フロア占めていて、窓からの眺めが良かった。新しいビルだけあってどこも綺麗で快適な職場環境に喜んだものだ。
 残念ながらここに通勤するのも今日で最後だけれど。

「水野!」

 人気の少なくなった廊下をこちらに向かって相澤が小走りに向かって来る。

「相澤。まだ残ってたの?」

「印刷所行っててさっき戻って来た。水野こそもう帰ったかと思ったよ」

 私の目の前まで辿り着いた相澤は両手を膝に当てて言った。
 走って来た為か少し息が切れている。
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