キャッチ・ミー ~私のハートをつかまえて~
プレゼント (野田和人視点)
肉と野菜をテキトーに切って炒める、くらいの「料理」しかできねえ俺は、目の前にあるオムレツを見て、柄にもなく感激しちまった。
見た目は美味そう、そして食うと、期待以上の美味さ。

「ひーちゃんはホント、料理上手だよなぁ。マジうめぇ」
「あぁ・・・ありがとうございます」
「料理教室に通ってたのか?」
「いえいえ。一度も通ったことないですけど、小さい頃からお母さんに、料理や家事は教えてもらっていたから・・・。お母さんは、40代で私を産んだから、一緒にいられる時間があまりないと思ってたのかもしれません」
「そうだな。人はいつ死ぬのか誰にも分かんねえが・・・そうかもな」
「子どもの頃はそういうこと全然考えてなかったから、参観日にお父さんが来てくれても、他のお父さんより年取ってるのが嫌とか、ズケズケと言ってしまって・・・」
「子どもはそういうもんだよ。純粋だから時に残酷にもなれる。俺、こういう怖い顔してっから・・」
「いえ。顔じゃなくて、雰囲気、あっ」

慌てて口を押えた聖を見た俺は、ククッと笑った。

「いいよ。とにかく俺、両親の近所の子どもたちに恐れられてるし」
「ええっ!?」
「俺の顔見て泣いた子もいたっけー」
「う、うそ・・・」
「何年も前の話だがな。それだけ子どもはバカ正直ってことだ」
「うーん。だったら、野田さんがホントは怖い人じゃないってことも、子どもたちは本能的に分かりますよね?」
「一緒に鬼ごっこしたら分かってくれた」と俺が言うと聖はクスクス笑い、「もちろん、俺が鬼」とつけ足すと、こらえきれずにゲラゲラ笑った。

これは実話なんだが・・・聖の笑ってる声聞いてると、俺の心は幸せな気持ちで満たされた。



聖が作ったもんは全部俺好みの味つけだからか、和食も洋食も、とにかく何でも美味いから、てっきり料理関係の仕事に就いてると思ったが、それは外れた。

だが聖は以前、幼稚園の先生をしていたと言うだけあって、手先が器用だと思う。
料理上手なことも然り。
「首が寒いから」と言って、自分でマフラー編んでたし。
今はクリスマスツリーのオーナメントを自分で作ってるらしく、俺はテーブルに置いてある、星型に切られた赤いフェルト布を手に取った。

「これ、自分ち用?」
「あ・・はい。今年は赤いオーナメントの飾りで統一しようかなと思って」
「ツリーは」
「小さいの、買う予定です」
「ふーん。ひーちゃんは手先が器用だな。料理も裁縫もめちゃ上手い」
「そんなことないですよ。幼稚園の先生していた頃、行事や季節ごとにお教室の飾りをしてたから、その名残で」

と慌てて謙遜する聖は、褒められることが苦手らしい。
自分に自信がない人に、よく見られる傾向だ。

「そういや前俺んちで編んでたやつ、もうできたのか」
「あぁ、はい。短めのマフラーだから」
「ひーちゃん、編み物好きか」
「え?ええ、まぁ・・はい」
「じゃーひとつ頼んでもいいか」
「あ・・私にできることなら、どうぞ」

というわけで俺は、施設の子どもたちへのクリスマスプレゼントに、マフラーを編んでほしいと聖に頼んだ。

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