君がいるから~雪の降る夜~
夜道を歩くふたり
怒れフグみたいにプリプリと、肩をいからせた彼女が前を歩いている。

東京で久しぶりに降った雪は、あっという間に辺りを白く染め、記録的な大雪と報じられていた。
車や人の姿もなく、まるで異世界に迷いこんだみたいだ。
常夜灯に反射してキラキラ光る新雪の上に、彼女の足跡だけが残っていく。

「なぁ、機嫌直してよ」

何回同じ言葉をかけたかな?

その背中にかける言葉は、むなしく無視されている。
このままでは、白くなっては消えていく吐く息のように、俺も消えてしまいそうだ。

仕事で多忙な毎日。
度重なるデートのキャンセルで、とうとうキレてしまったらしい。

わかるよ、うん、わかる。
俺だってどんなに会いたかったことか!

でも、俺にもどうにもできないことはある。

「なぁ、頼むよ。せっかく会えたんだから楽しく……」

雪を踏み潰すようにして歩く彼女は後ろの俺を振り向きもしない。
どうすれば機嫌を直してくれるのか?
お手上げ状態の俺は、困り果てて愛想笑いを浮かべるしかなかった。
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