躊躇いと戸惑いの中で
仲がいいんですね


新店オープンが迫ってきている近頃は、本社にいる人間のほとんどが残業を強いられていた。

強いられる、という言い方は会社的に余りよろしくないけれど。
新店への希望が大きい分、社員たちに力が入っていることは否めない。
必然的に張り切ってしまい、残業というパターンだ。

社長的には、残業などせずに、帰れるなら帰ったほうがいい。という考えなのだが、大型店舗のオープンともなると、そんな無責任な行動には出られないというもの。
ここの社員は、責任感の強い人材が集まっているんだ。

特に、あの河野なんか、そのいい例だろう。
シャツの袖をひじの所まで捲り上げた河野が、新店へ搬入する商品の入ったダンボールをせっせと運んでいる。

「精が出るじゃない」

バイト君たちに混じって力仕事を自らやっている河野に声をかけると、デスクワークより体動かすほうが好きなんだ、と白い歯を見せられた。
なんとも爽やかな笑顔じゃないの。

「新店に行くの?」

荷物と一緒に河野も新店へ向かうのかと訊ねれば、大きく一つ頷く。

「あっちでの作業に少し遅れが出てるらしいから、行って手伝ってくるよ。碓氷も行くか?」
「残念だけど、POPの方も確認なしなくちゃいけないし。エリアマネージャーが多忙な分、既存の店舗を廻らなくちゃいけなくて」

恩着せがましくわざと大変そうな顔つきをして、河野を少し茶化してみる。

「それは、悪かった。今度メシ奢るよ」
「アルコールつきでお願いします」

丁寧にお辞儀をすると、笑っている。

「了解」

荷物を積んだ車に乗り込んだ河野を見送ったあと、私は数時間をかけて各店舗を廻ったけれど、普段から河野に細かく指導されているせいか、改善点といえるほどのような点はほとんどなかった。

さすが、河野ね。

ついでといってはなんだけれど、河野の担当エリアではないところも見て廻ってみたのだけれど、そこはチェックがポツリポツリ……。
小田さん、しっかりしてくださいよ。

もう一人のエリアマネージャーのことを思い、息を吐く。
社長自ら指摘してくる前に、改善箇所を店長に告げて私は店を後にした。

小田さんには何か言っても、いつものらりくらりとかわされちゃうのよねぇ。
あ~あ。


< 32 / 183 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop