追憶のエデン
Episode6
「イヴには似合わない香りがするね……。
何でなのかなぁ?」


自室へと続く廊下を歩いていると突然腕を引かれ、使われていないゲストルームらしき部屋へと連れ込まれていた。そして息付く間もなくルキフェルの腕の中へと引き入れられれば、首元を擽る吐息に、ゾクリと甘い刺激が背筋を駆け抜けた。


「ねぇ…答えて?」


吸い込まれそうなサファイアブルーの瞳が有無を言わさない。
それでも黙ったままでいれば、ルキフェルの細く長い綺麗な親指があたしの目元を優しくなぞり、瞼に優しいキスが落ちた。


「ねぇ、僕の知らない所で泣かないで?」


今度は反対の瞼に、額に、唇に、優しく触れるだけのキスが落ちる。


「泣いちゃう程の事って…何をされたの?
――ほら、言って?」


閉じた瞳を開ければ、心配そうに覗き込むルキフェルの綺麗な顔。


「ルキフェルが考えてる様な、酷い事なんてされてないよ。寧ろ、逆かな?
ただ少し感傷的になっちゃっただけで、それにもう大丈夫だから。」


そうルキフェルに微笑めば、何かを考える様にあたしを見つめた後、ルキフェルはあたしの頬にそっと手を添え、また一つキスを唇に落とすと、少し強めにあたしを抱き締めた。


「イヴがそう言うなら、今回はそれで納得してあげる。
でもね…


――その瞳が映すものも…鏡が映すものも……真実だなんて、誰が決めたんだろうね?
だって…全ては受け取り手の過信に過ぎないんだ…。


ねぇ…次は僕以外の前で泣かないでね?
じゃないと、嫉妬で殺しちゃいそうだ――。」


ふふっといつもの様に笑う姿に驚き、目を見開けば、顎をルキフェルの手でクイッと持ち上げられ、親指で口を開かされた。


「舌…出して?」


おずおずと舌を出せば、ルキフェルは妖艷に微笑み、「いい子…」と言って、噛み付く様な唇と、執拗に追い詰める様に舌をねっとりと絡め、頭が溶けていく愛撫のようなキス。



「ぅんっ…はっ…んん…はぁ……」


チュッと名残惜しげなリップ音と共に唇が離れれば、銀の糸がツウっと伸び、更に羞恥心が煽られる。



「約束…ちゃぁんと守ってね?――はぁっ…んんっ……」



その約束を刻み付けるかの様なキスは、決して可愛いものではなく、契約の様な深く、心にまで刻み付ける様なキスだった。
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