エリートなあなたとの密約

過去と戯れ、迫る枢要

ようやく到着したのは、都内でも屈指の歴史ある高級料亭。

威風堂々とした日本家屋の佇まいと軒先を照らす、店名の看板を見てピンときた私。

思わず、「ここ」と呟きながら店構えをジッと見つめてしまう。

「あ、来たことある？」

「ううん、私じゃなくて。お父さんたちが記念日に訪れたことがあるの」

いつか両親が結婚記念日に食事をして素晴らしかった、と言っていたところだ。

「そっか。俺は今日が二回目」

「接待で？」

「いや、接待とは違うなぁ」

どこか煮え切らない答えにいらない不安を抱くと、それが顔に出ていたらしい。


「——すぐに分かるから心配する必要は全くないよ」と、くすくす笑うから口を尖らせてしまう。

「それにしても、お義父さんたち仲良いもんな。羨ましいよ」と、駐車場でエンジンを停めた彼が言ってくれる。

尊敬する両親とすっかり親しくなった彼の言葉に嬉しくなり、すぐ期限の直った私は本当に単純だ。


「そうだねぇ。でも、ソフィアさんたちも負けてないよ？」

「親父がお袋に敵わないこと、よく知ってるだろ？」

「うちもそうだよ？お母さん弁が立つし、お父さんのほうが丸め込まれてるの」

「ハハ！そりゃあ“プロ”には勝てないよな。
それに琉の彼女もお袋タイプらしくて、お袋の勢力が増したって琉が苦笑いしてたよ」

「あ、私もそのひとり？」

「どうだろ？」

「ええ、ここは否定しようよ」

フッと、頬を緩めて家族のことを話してくれるようになった彼。それが心から嬉しい。

修平のことをずっと心配してくれていたご家族との縁が再び繋がって、本当に良かったと……。