真夜中のパレード
憂鬱な影


透子は透子で、上条と冬馬が接触したことなど
つゆほども知らず、病院に来ていた。


会社から病院までは、電車で三十分くらいかかる。


通えなくはないが、
毎日来るとなると少し大変な距離だ。


しかし主治医から、
今日は母の体調に重大な報告があると言われ、
透子は病院に出向いた。


「失礼します」


診察室に入る。


向かいには年をとった医者が座っていて、
難しそうに顔をしかめていた。


CTスキャンした写真を見せながら、
今までの病状の変化について説明される。


「あまりよくない状況です」


「はい……」



それから医者は低い声で告げた。


「今週いっぱいが山場だと
思っていただいたほうがいいでしょう」


「……そんな」


告げられた言葉に深く絶望し、
とぼとぼと母の病室に向かう。


途中、廊下で元気そうに走る子供を見かけ、
思わず立ち止まってしまった。




母が長くないのだろうとは、
もうずっと思っていたことだった。


けれど、今週いっぱいが山場?


それは、あまりにも突然すぎて。




……母が、もうすぐ死んでしまう。



少し考えただけで、
目の前が真っ暗になりそうだった。


まだ受け取った言葉を咀嚼しきれず、
透子は青い顔で近くにあった椅子に座り込んだ。


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