コンプレックスさえも愛されて。
旅館にて。



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彬さんが仲居さんとにこやかに会話をしながら歩いていく背中をぼんやりと見つめる。
繋がれた手はやっぱり離れる事がなくて、こんなに長い時間誰かと手を繋いだ事なんてなかったから、汗掻いてないかなとか、恥ずかしいなとか、他愛もない事を脳内が占める。




案内されたのは、数寄屋造りの離れの露天風呂付き客室。
部屋の入口からして高級なのが分かって、私のお給料の三分の一くらい飛んじゃうんじゃないの?ってドキドキしてきた。



旅館に着くまでは実感がなかったけど、部屋に案内されて、彬さんが仲居さんに心づけなんか渡してるのを見て。
その後でにこやかにごゆっくりどうぞ、なんて言われて二人きりにされると、本当に本当に彬さんと此処に泊まるんだ、っていうのを実感して、それの意味する事=彬さんに宣言されたあの言葉が、私の胸をギューって締め付けた。



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