私だけの魔法の手。
5


半年先の予約も取れないような人に、自宅で髪を弄られている現状は受け入れ難く。
しかも見た目年下にか見えなかったのに、プロフィールでは確か、私の三つ上の31歳だったはず。



高校卒業後に美容師の学校で、理容を二年、美容を二年学んだ後にそれぞれのインターンを一年づつ経験。
その後単身フランスに渡ってヘアメイクを三年学んで帰ってきて、ヘアサロンをオープンした途端に、一躍時の人、っていう経歴の持ち主。





チラッと鏡の中の蒼を盗み見れば、真剣な表情で私の髪質を指先で確かめていて。
その右手がハサミを握った瞬間、蒼の纏う空気が変わったような、そんな気がした。





見惚れる、っていうのがこういう事なんだって実感する。
真剣な表情に目を奪われる、っていうのもあるけど、それ以上にハサミを握る手指のキレイな事も、その洗礼された動きの優雅さも。




毎日毎日、閉店後に一人黙々と練習をしてた。
カリスマと呼ばれて、芸能人にも彼と専属契約を希望する人がたくさんいるというのに、毎日毎日、誰よりも長い時間、努力を惜しまない人。


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