溺愛クルーズ~偽フィアンセは英国紳士!?~
二、一日目。偽装契約


「彼女は大切なゲストです」

パスポートを見せながら、彼はそう出国手続きをしながら何度も何度も言った。
どうやら、彼待ちで出港できずにいたらしい船は、クルー数人と支配人以外はもうお客の荷物を持って船内へ向かっていた。

彼が抱きあげたままの私に、クルーは誰一人驚いた顔はせず、笑顔だった。
よく指導されていると思う。
私だったら彼にお姫様抱っこされたまま挨拶もしない客には動揺してしまうし良い気持ちではないもの。

でも、彼が言いわけしなくて誰も深く追求して来ない。

支配人だけは。

「船長。彼女が弟君に会わせると約束していた婚約者ですか?」

他のクルーに気付かれないように、深い青い色の目をした支配人は日本語で話しかけている。60過ぎたうちのおじいちゃんと同じくらいに見えるんだけど、若々しいオーラとか気品とか感じられてちょっと素敵。
年齢が刻まれた皺は、彼を落ちついた素敵な雰囲気をもたらしてくれている。

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