LOZELO



7.


優奈ちゃんの両親がやってきたのは、金曜日の夕方だった。

絵本を読んであげていたけれど、お母さんの声を聞くと優奈ちゃんは文字通り飛んで行った。


「こんにちは、いつも優奈がお世話になってます」

「ママ!紗菜ちゃんはね、すごく絵本読むのが上手なんだよ!あとね、絵も上手!」


優奈ちゃんの近況報告に一つ一つ反応してあげてるお母さんはとても幸せそうで、それを傍らで見つめるお父さんもにこにこ微笑んでいて、私も思わず笑顔になった。

明日、優奈ちゃんは退院する。

こんなかわいい優奈ちゃんを一人、遠く離れた土地に置いての生活が終わることに、パパもママもきっと安心していることだろう。


「紗菜ちゃん、いつもありがとうね」


お母さんに言われ、少し切ない気持ちになった。


「なかなか気軽にこれる距離じゃないから、この子も寂しかったと思うんだけど、紗菜ちゃんがいてくれて私もパパも安心してたの」


ありがとう、の言葉が、すごく重くて、温かかった。


「退院しても優奈と会ってくれる?もし良かったら、連絡先教えてほしいんだけど」


連絡先を教えることなんて久しぶりすぎて、赤外線の使い方も忘れかけていた。

退院したら連絡ちょうだいね、と言われて、なんだか胸があったかくなった。

私の退院を楽しみにしていてくれる人がまた増えた。

午前中、おそらく授業中だけど、"明日行くね!"と莉乃からメールが来た。

莉乃のことだから上手くやっているだろうけど、心配で仕方なく過ごした一週間は長くて長くて。

メールでは何とでも言える。莉乃が何も言わないからあえては聞かないけれど。

自分のことより心配。

それを江口先生は、優しい証拠だと言ってくれたけれど。

自分のこともおんなじくらい考えてあげてと、微笑んでいた。
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