LOZELO
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8.知らない世界に、こんにちは
随分楽しかったみたいだね。
週明け、回診に来た江口先生に、洗濯したハンカチを手渡すと言われた。
江口先生には涙を見られている手前、少し目を合わせるのが気恥ずかしいけれど。
笑って、泣いて。何時間、話し続けただろう。
絶食中の私に気を遣って、同じ気持ちを味わうんだ!と食事もせずに。
帰る頃には日が暮れかけていたし、3人とも話しすぎて喉がかれていた。それにも3人で大爆笑。
私の家庭事情を聞いた二人は、真剣に私の気持ちに向き合ってくれて。
何かあったら、私たちの家に家出してくればいいじゃん、と本気で言っていた。
こんなに友達に恵まれていたなんて。
その愛情を受け取ることをしてこなかった私は、つくづくもったいない。
退院したら、遊び倒したいなと呟いたら、"今までも休みの日だって紗菜と遊んだりしたかったけど、気遣ってたんだから"と莉乃に愚痴られた。
莉乃のこと本当は大好きだし。と言ってあげたら、本気で喜んでいたけれど。
夏美も普通にメールをくれるようになった。
「先生、私、お父さんと話してみます」
「うん。無理しないで少しずつでもいいから」
何もしないと何も始まらないし、変わらないからね。
重みのある言葉が、私の心にスーッと沁みていった。
「あ、そういえば、お父さん来る日決まった?」
江口先生が去り際、訊ねる。
「これから、聞いてみようと思ってます」
でも今が幸せな分、現実と向き合うのが辛くて、億劫で。
江口先生が病室を出て行ってから、長時間をかけてようやく作成したお父さん宛のメールは、いつでもいいから来てほしい、と絵文字も句読点もなく簡素に。
メールを送るなんて、初めてかもしれない。
電話すら、あまり掛け合ったりしなかった。