マネー・ドール -人生の午後-
帰郷

(1)

 外に出ると、雨が止んでいて、ちょっと蒸し暑いけど、夏の風が、ビルの間を吹き抜ける。
駐車場へ行くと、田山くんがドアを開けてくれて、私達は、運転席と助手席で、軽く打ち合わせをする。
もう何年も、こうしている。
私と田山くんは、もう、十年、一緒に仕事をして、一緒の目標を追いかけている。

「やっぱり、部長に来ていただくと、話が早いです」
 クライエントとの打ち合わせの帰り道、彼は、運転席で、そう言った。
 オフィスに戻ると、若い部下たちが、私の帰りを待っていて、顔を見るや否や、次々に、相談事や問題事を、持って来る。
そして私も、次々に、答えて、解決していく。

 ありがとうございました。
 いいのよ、なんでも相談してね。

 さすが部長です。
 部長がいないとまわりません。
 部長に憧れています。
 部長みたいになりたいんです。
 
 部長……部長……部長……

『甘えないでよ!』『それくらい自分で解決しなさいよ!』
 なんてね。何度も、心の中で叫んだっけ。何度も、何度も。
『知らないわよ!』
 この一言が言えたら、どんなに……

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