艶楼の籠
椿の実力

仕事を終わらせ、夜の町へ足を運んだ。
この時間は怪しい光が灯る。
その光が私をより一層緊張させる。


華やの暖簾をくぐると、富さんが出迎えてくれた。


「雅さんっ!来てくれたんだね!さぁ。誰に致しましょうか?」


「椿さんでお願いします。」


緊張で声が震えてしまう。
それを隠すように、大きな声で話した。


「今日も元気がいいこと!では、奥の座敷へ…。さぁ!若葉!客人を案内しておくれ。」


柱の影に隠れていた青年が元気よく返事をした。


「はいっ!」


案内をしてくれる若葉という青年と薄暗い廊下を通り越し、明るい座敷へと足を踏み入れる。


「もうしばらく、お待ちください。」


「はい。ありがとうございます。」


「では、私はこれで…。」


座敷を出て行く少年の横顔には、どこかあどけなさが残っている。

やはり、椿もあんな小さい頃から、この華やにいたのだろうか。
そんなことをぼんやりと考えていた。


「雅っ!!!」


大きな声で呼ばれ、身体が大きく跳ねた。
驚き過ぎて声も出ない。


「…!」


私の名前を呼ぶと、ゆっくりと歩み寄り、抱擁してきた。
耳元で囁かれる声に、身体がゾクリとする。


「会いたかった。あの日から、日は経っていないのに、早く会いたくて仕方なかったぞ。」


「っつ!!」


恥ずかしさのあまり、声がでなく、顔は火照ってしまう。
椿は、身体を放し顔を覗いてくる。


「なんだ?反応がないと思ったら…顔が真っ赤じゃねぇか!初々しいねぇ。」


「い、いきなり抱きしめたりするからです!!」


「抱き締めたかったから、そうしたんだ。何が悪い。……お前も俺に会い来たんだろ?」


なんとも、妖艶な笑みを浮かべ、囁く声は甘い。
椿の瞳は、私を捉えて逃がしたりはしない。

私は、この瞳に見つめられると何も考えてられなくなってしまう…。
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