4月1日
4月1日

伝えられないこの気持ちが消える日は、いつかくるのだろうか。


その日を望んでいるのか、そうでないのかさえ分からず、苦さを飲み込むように残っていたモヒートを一気に煽った。

「それぐらいで止めておけよ」

大きな手のひらが、私の前に水を置いた。

冷えたグラスの中で、四角い氷がカラリと涼しい音を立てる。

素直にそれを受け取ることができず、余計なお世話と指で押し返し、通りかかった店員に追加注文する。

だが、運ばれてきたアルコールは、私の前に置かれるとすぐさま攫われていった。

その行方をとろりとした視線で追う。

男の長い指が持つと、同じグラスでもやけに小さく見えた。

「曽田ぁ……」

少々怪しい呂律で隣に座る男の名を呼んだ。

片方の眉を器用に動かし、端正な顔がちらりとこちらを見つめる。

同じように飲んでいるはずなのに、未だ白面と変わらぬ顔で飄々とグラスを傾けているのは同期入社の曽田だ。

女子社員の評によると仕事、顔ともに上位クラスらしい。

らしい、というのは私の実感が伴っていないためである。

曽田に対してはどうしてもライバル意識が先にでてしまう。

効率よく短時間で結果を出す曽田と、残業しまくってようやく及第点の私では比較にもならないのだけど、どうしたって奴の功績を素直に認めることができない。

判っている。これはただの嫉妬だ。

柔軟な発想や、常に張り巡らせたアンテナから新しい情報を仕入れて分析する力なんてものが私には足りない。

同じ企画でそれぞれプレゼンした時だって、女性らしい企画だと曽田は褒めてくれたけど、私の武器はそれだけだ。

曽田は女性だとか男性だとかそういう枠を越えた老若男女を取り込むようなアイデアを出してくる。

それに、敵うわけがない。

だからこれは、醜い自己嫌悪にしかすぎない。


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