片道切符。
8月5日



「短い間ですが、よろしくお願いします」

朝礼で今日から入る、短期バイトの大学生が紹介された。

主に事務の手伝いが仕事だから、現場に出る僕たちとは、とりわけ関わりはないだろう。


自己紹介を済ませた彼女が頭を下げると、自然と拍手が起こる。

静かにまわりを見渡せば、みんな明るい顔をしている。


男ばっかりの世界に、一輪の花が咲いたんだ。

こわばった顔をして彼女を見つめるのは、僕くらいだろう。


…なんで、ここにいるんだよ。

夏休みの間だけこっちに帰ってきてるとしても、

なんでこのバイトをしようと思ったんだよ。


僕は前に立つ先輩の陰に隠れるようにして、俯いた。

どんな顔をして、彼女に顔を合わせればいいのかわからなかった。

心に渦巻くぐちゃぐちゃした気持ちが、消えなかった。


けれど関わりはないとはいえど、ロッカー室があるのは、事務室を通ったその奥だ。

どんなに避けても、これから毎日、僕は、彼女を見ることになるだろう。


諦め混じりのため息をついて、再び顔をあげると

こちらを見つめる彼女と目が合った。


…なんだよ、1か月間知らないふり決め込むことも、できなくなったじゃないか。


無表情で彼女を見つめ返すと、

彼女がさびしげに、微笑んだような気がした。

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