私の優しい人
◇7◇
そして、楽みな夜はすぐにやってきた。


 退社後の金曜日の夜。

 啓太さんと出会ったコンパでも一緒だった、同僚の七緒ちゃんと一緒に食事をして、彼が出張から戻ってくる電車が到着するまでの、時間潰しに付き合ってもらった。

 あのコンパでくっ付いたのは私と啓太さんだけらしい。

 彼女は男性陣の番号は残っているものの、誰とも連絡も取っていないと言う。

 そんな事を喋りながら、2人で目指したのはうどん屋さん。

 この辺りの名物でいつも行列ができる所。

 七緒ちゃんとのお喋りは楽しくて、並んで待つ時間は全然気にならなかった。

 ランチは一緒に取るけれど、それほど突っ込んだ内容を会社でする事はできない。

 ここぞとばかりに、お互い喋り倒す。
 順番待ちの列は順調に進み、ほどなく無事に席につき、食べる事ができた。
 
「現地調達って言うんだって」
 うどんをすする合間に七緒ちゃんが言う。

 コンパの席で啓太さんの同僚が、恋人は現地調達で賄うと発言していたのを彼女は聞いたという。

 物みたいな扱い。私もそれを聞いていたら嫌な気分になっただろう。

 うどんを啜る彼女のテンションは、普段よりちょっと高めだった。

「里奈も現地調達で終わらないようにね」
 冷たい言い草だったけど、長年の付き合いで彼女が本当に心配してくれているのは分かった。

「大丈夫だよ」
 彼はそんな人じゃないから。

 それは確信を持って言える。

「これは彼氏と一緒には食べられないな」

「そうかも」

 火から降りているのに未だにぐつぐつと音をたてる煮込みうどんは、アヂヂの連続。
 汗びっしょりで食べ終わった。

 レジの前で、割り勘にしようとする友人を、タックルする勢いで強引に店外に押しやり、ここは私が奢らせてもらった。


「あんた、おばちゃんみたいね」
 友人は肩を痛めたと、大げさにそこをさすっていた。

 芝居掛かりすぎていて笑うしかない。

 お泊りセットの入った小型のキャリーバックを引っ張り、待ち合わせ場所である中央コンコースの大時計前へ向かう。

 迷子になるような場所じゃないのに、友人は大時計前まで一緒に来てくれた。

 トッピング込みで一人二千円弱の贅沢に恩を感じ、その分をこれで返してくれるらしい。

 彼が到着する時間ギリギリまでここに留まってくれた。


 七緒ちゃんの後ろ姿を見送る。

 思えばコンパに誘ってくれたのも彼女だった。感謝しかない。

 それをきちんと口にしておけば良かったと後悔した。
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