「恋って、認めて。先生」
13 「恋って、認めて。先生」

 そんな時だった。

 3年A組前の廊下を、比奈守君と女子生徒が二人、並んで歩いているのが見えた。普段と違い満員電車みたいな人混みの中、私の目には仲良さそうにしている彼らの姿が飛び込んでくる。

 あれは、河田さん。夏期講習中、比奈守君の背中に抱きついていた女子生徒だ。彼女のファーストキスの相手が比奈守君だとも言っていた。

 二人は付き合うことになったの?幼なじみ同士だから、色々分かり合えることもあるのかもしれない。


 ショックと絶望でその場に立ち尽くしていると、私の視線に気付いたのか、比奈守君がこちらを見た。

 あわてて目をそらし、来た道を戻ろうと後ろを向くと、永田先生とバッタリ出くわした。

「大城先生、ちょうどよかった。1年B組のチョコバナナおいしいみたいだよ。一緒に行かない?」
「そうですね、ちょうど何か食べたいなぁと思ってたんです!」

 ほとんど比奈守君の存在から逃げるように、永田先生の誘いに応じた。

 評判通り1年B組のチョコバナナはおいしくて、昼前だというのに私は2本もたいらげてしまった。

「ホント、大城先生は甘い物が好きなんだね」
「はい。見るとつい、たくさん食べてしまうんですよね」

 食べ終えると、永田先生と一緒に体育館裏のベンチに座った。校内と違い、この辺りは人がいないので、永田先生とまったりしていても女子生徒に睨まれずに済む。

 あの件で好感度が下がったとはいえ、永田先生を好きな女子生徒はまだいるし、本音をぶちまけた永田先生に新しいタイプのファンがついたとのウワサもあるので、私は内心、けっこう気を遣っていた。

「甘い物好きな人って甘えん坊らしいよ」
「そうなんですか?自覚なかったです」

 永田先生と会話していると、条件反射のように比奈守君の顔が浮かぶ。

「じゃあ逆に、甘い物苦手な人ってどんな人なんでしょうか?」
「素直じゃない」

 当たってる!比奈守君は素直じゃなかった。特に、付き合う前は。

「でも、乙女心が強い面もあるみたい」
「乙女心、ですか……」

 たしかに、イミテーションシトリンを買ってくれた時も、比奈守君は石言葉を用いたりして、ロマンチックな言葉をくれたな。

「栄養状態によって性格が変わるって話もあるくらいだから、血液型占いとかよりは当たってる気がする」
「好きな味で性格が分かるって、すごいですね。そういえば、占いといえば、C組が占いカフェをやってましたね」
「行ってみる?」

 女子生徒の目が気になるので断ろうかと思ったけど、一人で占いカフェに行くのも気が引ける。永田先生のイタズラな瞳につられ、私は3年C組の教室に行くことにした。
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