“毒”から始まる恋もある
5.恋は全力で

気がつけば三十分以上も時間が過ぎている。

飲むって言ったって食事は終えているわけだから、そんなに長時間はいないはずだ。
とはいえ、私の歓迎がメインなのだから帰ってはいないはず。

私は焦って駅前までの道を行く。
大した距離じゃないんだけど、細いヒールを履いてきているから動きづらい。
側溝に足を掛け、転びかけて何とかこらえる。


「あっぶない」


体を美しく見せるための服は、得てして機能的ではない。
それでもそれを選ぶのは、やっぱり女でいたいから。

シンデレラだってそうじゃない。
ドレスに憧れ、魔法で着飾らせてもらえたことで初めて目を留めてもらえるようになる。
その後の王子との恋愛はまあ物語だなぁって思うけど、その部分には真実があると思う。

美しく着飾って、誰かに愛してもらいたい。
それが、結局は女の根底にある願望なのだ。


 駅前のビルに入り、一度化粧室に入る。

きっちり巻かれた髪はまだ形を保っている。
まつげはこれ以上いじると多分悪化するだけだから、とファンデーションと口紅だけを手直し。

よし! 気合入った。


 エレベーターの傍に掛けられている店内案内図で探すと、【カメリア】は直ぐに見つかった。

駅ビルの一角、仕切られた飲食店が続くブースの三件目の店で、窓に色硝子が入っていて中は覗けない。

扉を開けて中に入ると、照明のせいか薄暗く感じる。
カウンターの奥の棚には、ボトルキープされたウィスキーが並んでいる。

カウンターは既にびっちり埋まっていて、皆一瞬私の方を向いたかと思うと、何事もなかったかのように目の前のグラスを傾け始める。

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