私が恋した男(旧題:ナツコイ~海男と都会男~)
◆第1章:突然の異動命令
 私は通勤で使っている電車に乗り、ドア付近に立ちながら流れていく風景を見る。

 季節は春だけれど陽射しが徐々に強くなっていて、あっという間に夏になりそうだ。
 
 まだ目的の駅に到着するまで時間がかかるので電車内の中吊り広告を見ると、週刊誌や企業の広告がある中に一つの広告に目が留まる。

 それは、自分が勤める『四つ葉出版社』の広告だ。

 四つ葉出版社は大手に比べて小さいけれど、ファッション、スポーツ、タウン情報などの分野を手がけて発行している。

 私は、その中の26歳以上の女性をターゲットにした女性ファッション雑誌『Clover(クローバー)』の編集をしていて、締め切りが間近だと遅くまで仕事をするけれど、雑誌が発売されると頑張ったかいがあり、また次の発売にむけてやる気も出てくるのだ。

 私は他の中吊りの広告にも見回すのはリサーチの一つで、他社の雑誌の広告がどのように打ち出しているのかも確認するため。

 様々な広告を見回していると、恋愛をテーマにした雑誌の広告に目が留まり、中でも『女子に人気な男性の職業Best10!』という文字が書かれている。

 普段の私はファッション関係の内容しか頭に入ってないので、恋愛は25歳の時に付き合っていた男子と別れ、それっきり独り身だ。

 彼は知り合った当初は俳優を目指してたけどなかなか結果が出なくて、結局社会人として働き出したけど、それによって今度は私との時間が合わなくなり、彼から別れを告げられた。

 たまに女友達に誘われて合コンにいくけど、参加する男子の職業はいつも女友達がこだわっていたのを『女子に人気な職業Best10』という文字を見て思い出す。

 たしか、この前の合コンは公務員だったけかな?

 女友達は目がハートになっていたから、やはりBest10の中には公務員が入っているのだろうか。

 私はあまりピンっとこなかったけど。

「藍山駅~、藍山駅~」

 電車は四つ葉出版社の最寄り駅に着き、改札を出て徒歩10分の距離にある四つ葉出版社へと向かい始めた。
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