あなたと恋の始め方①
第三章

一歩進んでみる

「仕事の面の厳しさは似ていると思います」


「それ以外にも似ていると思うよ」


「そうですか?」


 小林さんは私の方を見つめると、ふわっと優しい笑顔を見せた。そして、目を細める笑顔は綺麗だと思う。この素敵な人が私の彼だと思うとなんだか信じられないけど、昨日から間違いなく私の彼になってくれたはずだった。そして、今は仕事を終わった私を迎えに来てくれている。


 昨日の夜も今朝も嘘じゃなく現実だと改めて印象付ける。私の目の前で少し上を向かないと小林さんの表情の全てを見ることが出来ない。少し踵が浮くのは私が小林さんに近付きたいと思う心がそうさせる。


「美羽ちゃん。お疲れ様。疲れたろ。すぐにマンションに送るから。車に乗って」


「あの、迎えに来てくれてありがとうございます」


「俺が会いたかっただけだから」


 そう優しく微笑む顔を見ながら、私は仕事をあの時点でやめておいてよかったと思った。もう少し遅かったら…日付がかわってしまう。そうなると申し訳ない気持ちも倍増してしまったと思う。付き合い始めて次の日にも私に会いたいと思ってくれることが嬉しかった。


『私も会いたかった』


 言えない言葉が胸の中でゆっくりと沁みていった。


 小林さんの車に私が乗ると、小林さんはゆっくりと車を走らせ出す。今日あったことを話しながらの道はあまりにも近い。今日は左のコンビニに向かうこともなく、真っ直ぐ私のマンションに向かって車は走る。止めてと言いたくても言えないのは夜がこんなにも深いから…。


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