季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
知らぬ顔をやめた順平
ドアを開けると、リビングは真っ暗だった。

順平はバイトかな。

リビングの電気をつけようと手を伸ばした時。

「あっ…んんっ…。」

順平の部屋から声が聞こえる。

「ああん…いいっ…もっと…!」

ん…?もしかしなくてもこれは…。

女の喘ぎ声とベッドの軋む音が漏れ聞こえ、ドア越しにでも部屋の中で何が繰り広げられているのか、簡単に想像がつく。

私は電気をつけるのをやめ、忍び足でリビングを横切り、そっと自分の部屋に入って、音をたてないようにドアを閉めた。

順平のやつ…!!

私には男を連れ込むなとか言っておいて、自分は女連れ込んでしっかりやる事やってるんじゃない!!

そりゃ確かに順平の部屋ではあるけれど…私の留守中だったとは言え、そんな事をされたら気持ちのいいものではない。

結局…誰でもいいんだな、順平は。

“オマエに言われたくない”って言われそうだけど…。

どうでもいいと言えばどうでもいい。

私と順平はなんの関係もないんだから。

やっぱり、少し無理をしてでも早くこの部屋を出よう。

順平にとっても、その方がいいはずだ。

今一緒に暮らしているのは、私の好きだった順平じゃない。

もし同一人物だったとしても、もうあの頃の順平じゃない。

私ももう、あの頃の私じゃない。

過ぎた時間はもう戻らないという事は、イヤというほどわかっている。

思い出は思い出として今の現実を見なければ、私は一歩も前には進めない。


そろそろ現実を見るべきなのかな…。




< 125 / 208 >

この作品をシェア

pagetop