艶楼の籠
椿の魅力
きつく抱きしめられると、ふわりと香る椿の香りが鼻をかすめる。


「…雅。」


かすれそうな声で名前を呼ばれると、何故か胸が締め付けられる。


「…あの……椿さんっ…。」


名を呼ぶと、椿は慌てて身体を引き離した。


「すまない!痛かったか…?」


そんな不安げな表情をされると余計に苦しくなる。


「痛くないです……私…。」


今私は、どんな表情で椿を見つめているのだろう。
華の王と呼ばれる椿の手練手管に乗せられているのは、知っている。
椿にとって客人の一人にすぎない。
富さんの頼みで、ここへ足を運んでいる事を椿は知らない。
しかし、頼まれごとと思いながらも、日に日に変化していく自分の気持ちに戸惑っている。
椿が客から想いを告げられると、どれだけ迷惑なのかも充分わかっている。
私は椿の心の奥底にある苦しみ…抱えている事を解決する為にここに来ているはずなのに。

椿は私の様子を伺いながらも手をとって歩き出し、奥の部屋へ行く為、襖をあけた。


「…………………。」


灯篭の灯火が揺らめく部屋の中で無言が続く。


「今日は突然店に行って悪かったな。」


先に口を開いたのは椿だった。


「着物を雅に見立てて欲しいと思ったのは事実だ。でもな、陽の高いうちに雅の顔を一目見たかった…と言った方が正しいな。雅に会う口実が欲しかったのさ。迷惑だとわかっているが…。」


真っ直ぐ見つめられ真剣に話しているのに、椿の瞳はどこか不安げだった。


「迷惑だなんて思っていません!………私が椿さんの魅力を引き出せるように、精一杯頑張りますからっ!」


「………………………。」


椿は、呆気にとられた顔をしている。
何か変なことを言っただろうか。


「ぷっ…あっはっは!雅!やはり、お前さんには敵わないな!」


次々と変わる椿の表情についていけなくなる。
パッと明るく笑う時は、いつも少年のようだ。
あの艶やかな雰囲気はどこにも感じられない。


「ところで…。雅は、どうやって俺の魅力を引き出してくれるんだ?」


そっと髪を撫でられると、ゾクりと身体が震えた。椿は、私の髪をすき、束にして口元へ持っていく。
昨日の口づけを思い出し、心臓がドクドクと脈をうつ。
全身に血液が送り込まれ、顔も火照ってくる。


「すぐに、そうやって顔を赤くする。そんなんじゃ、先へ進めやしないぞ?」


「そっ、それは…!椿さんの魅力を引き出す事に必要な事でしょうか?!」


自分でも何を言っているのかわからなくなるほど、動揺している。


「当たり前だ。一つ俺を知る事が出来るぞ?」


少し意地悪な表情をし、私から離れた。
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