密会は婚約指輪を外したあとで
契約違反をした場合

いつか見た夢の続きを見ていた。

優しく髪を撫でてくれる温かい手。
心地よくて、ずっと眠りについていたい……。



目を開けると、私は拓馬に腕枕をされて至近距離から見つめられていた。

シャツを脱ぎ黒いタンクトップ一枚の彼の姿が目の前にある。

いつもの意地悪そうな目つきではなく、穏やかな表情。

私は信じがたい気分で、わけもなく首を横に振った。

平凡陳腐な私の身に、こんな王道展開が待っているはずがない。


飲み過ぎた私は、他愛ない話をしているうちに、たぶんそのままソファの上で眠ってしまったのだ。

そして今、ベッドの上にいるということは、拓馬が運んでくれたと思われる。

きっと自分が帰ったら、部屋の鍵が開いたままで不用心だと気を遣ってくれて、帰るに帰れず泊まることにしたのだろう。

いびきとか、かいていなかったかが心配……。


でも、そんな心配よりも。

ブランケットの下は残念ながら、普通に昨日の服を着た状態のままだった──。

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