イジワル御曹司に愛されています
まさかまさかの
「お礼メールも完璧だね」


松原さんが自席で、ほうとため息をついている。私も朝イチで都筑くんから送られてきた文面を見て、同じことを考えていた。

先生方とは別に、私たちへのお礼として、礼儀正しく、でもゆうべの宴会でちょっと距離が詰まったことを示すくらいには親しげに、そつなく明るい文章で綴ってある。


「センスがいいんだな」

「そうなんですね…」

「高校のころは、こういう感じじゃなかったの?」


今すぐ電話かなにか来て会話を邪魔してくれないかなあ、と願ったけれど、そんな奇跡は起こらず、「えーと」と考える時間を稼ぐ。


「実は…よく覚えてなくて…」

「そうなの? それでよく、会って彼だとわかったね」


無邪気に指摘され、嘘のへたな自分を呪った。


「千野さん、講習資料の更新予定って、千野さんに聞けばいい?」


声をかけてきたのは、隣の席の先輩だ。


「はい、問い合わせですか?」

「そう、大学の研究室から」

「私、返信しておきますから、そのメール転送してください」


助かるよー、と言ってもらえて、私こそ助かります、と心の中で返事した。

通常業務は精神が癒される。


* * *


「え、都筑と寿って、そんな感じだったっけ?」

「そんな感じって?」


私たちがここ二年ほどお世話になっている、個人経営のネイルサロンで、チップを見ながら、あかねが色を選んでいる。


「いじめっ子といじめられっ子」

「そこまで悲しい表現されるとちょっと…」

「でも、嫌がらせ受けてたんでしょ」

「嫌がらせっていうか」

「決めた、これにします」
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