イジワル御曹司に愛されています
知らないよ
ぐるぐる、ぐるぐる。

頭の中で、都筑くんと未沙ちゃんが回る。金髪のふたりと、黒髪のふたり。高校生のふたりと、今のふたり。

立食パーティと立ち仕事の連続で、再び痛めてしまった右足に湿布を貼りながら、妙な想像を追い出そうとした。けれど都筑くんの不愉快そうな声が、とげのようにあちこちに刺さり、それを許さない。

なによ、もう。

涙が浮かんできた。

理由も言わずに、いきなり怒って。それじゃ私だって、どうしたらいいのかわからないよ。

未沙ちゃんとだって、結局会うんじゃない。だったらいったい、なにがそんなに気に入らなかったの? 私、そこまで怒らせること、した?

つい先月、この部屋に、あの姿があったのに。楽しそうにくつろいで、私の質問に答えて、笑ってくれていたのに。

なによ。

悲しくて、けれどなにがそんなに悲しいのかわからなくて、困った。



もしかして、仕事が始まればもとの都筑くんに戻っているんじゃないだろうか、という私の期待はすぐに打ち砕かれた。


「いつも都筑がお世話になっております。本年もどうぞよろしくお願いいたします」


都筑くんと一緒にやってきた、ぱりっとしたスーツの、背が高くて恰幅のいい男性が、そう言って丁寧に頭を下げた。

久しぶりに都筑くんに会えた松原さんはご機嫌で「こちらこそ」と名刺交換をしている。続いて私も交換しつつ、この方が都筑くんの上司か、と観察した。


「弊社が不慣れなせいで、都筑さんにはお世話になりっぱなしで」

「いえ、御社のご協力が、どれだけ今回の展示会の価値を高めているか。都筑が御社との取引を持って帰ってきたときは、アカウントが沸きましたよ」


卸や出版社、専門機器メーカーさんなど、年始にご挨拶に来る企業は多い。それはすなわち相手も、回る先をたくさん持っているということで、引き留めないよう立ち話が基本だ。

都筑くんたちも、いかにもこの後に訪問する先が溜まっている雰囲気で、お年賀でふくらんだ自社の紙袋を持っている。

上司さんの後ろで控えめにしていた都筑くんが、最後に口を開いた。
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