行雲流水 花に嵐
第五章
「でもさ、どーすんの」

 野菊を出てから川沿いを歩きながら、片桐が傍らの宗十郎に聞いた。

「助けるってもさ、どこから手を付ける気なの」

「それはやっぱり亀屋だろ」

 軽く言って、宗十郎は片桐を指差した。

「お前さんに頼むぜ」

「何でよ。いきなり人任せ?」

 思いっきり不満顔になった片桐が、ふと足を止めた。
 先の辻を見、息をつく。

「ま、亀屋に入り込んでるのはあたしだものね」

「助け出すのは無理としても、ま、いるかどうかぐらい探ってくれ」

 見世の内部に入れる片桐であれば、見世の中を探ることも可能だ。
 どこかぶらぶらと辻に向かいながら、片桐は少し顔をしかめて宗十郎を見た。
 辻を曲がれば色町だ。

「全然焦ってないのね。おすずちゃんの命が危ないっていうのに」

 辻で立ち止まり、宗十郎を睨む。

「焦ったって、どうしようもない。可哀想だがおすずは、俺にとっては情報源でしかないしな」

「は~。その言葉、おすずちゃんが聞いたら泣くわね」

「お前だって、あいつは戦を起こす火種としか見てねぇだろ」

 宗十郎の言ったことに、片桐は面白そうに目を細めた。
 そして辻を曲がっていく。

「だからお礼に、助け出してあげるのよ」

 ひらひらと手を振って歩いて行く。
 結局のところ、片桐だっておすず個人を心配しているわけではない。
 闘争狂の片桐を満足させてくれそうな火種となってくれたお礼に助けてやろうというだけだ。
 宗十郎をいかにも冷たいと責めるが、片桐だって似たようなものなのである。
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