左手にハートを重ねて
【2】すれ違いの初夜
 通りに出ると、彼は無言で私の前を歩いていく。

 紺色のポロシャツにカーキ色のチノパン。
 結婚式の2次会だというのに、いつもとまったく変わらない格好だ。

 彼はひとことも話さない。
 もしかしなくても、怒っているのだろう。
 チクンと心に痛みが走る。

 足の長い彼は、どんどん先を歩いていく。
「待って」と声をかけても、こっちを見ようともしない。
 私のこと、無視してる?

 なによ。私が悪いとでも言いたいわけ? 
 声をかけてきたのは森崎のほうなのに。
 こっちは絡まれていただけで、どちらかというと迷惑に思っていたのに。

 泣きそうな気持ちで彼の背中を睨んでいたら、なんでもないところでつまずいてしまった。
 転んだ拍子に、ハイヒールのかかとが折れる。

 めでたい日だというのに、とことんついてない。
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