世子様に見初められて~十年越しの恋慕
第一話 黄金のトルパンジ


「お嬢様っ、おやめくださいっ!そんな恰好しては、揀擇(カンテク:妃選び)に差し障りますし、旦那様に酷く叱られてしまいますよ?!」
「あら、なら尚更やめれないわ。叱られることが目当てなんだから」
「えぇっ?!」

ソウォンの言葉に拍子抜けした下女(使用人、下働き)のチョンア。
襟に花の手刺繍柄が施された淡い桃色のチョゴリ(上衣)を手にして、呆然と立ち尽くす。
そんなチョンアを横目に、ソウォンは下女の服を身に纏い、鼻歌交じりで髪を結い直していた。


漢陽(ハニャン:朝鮮の首都)の中心部にある北村(プクチョン)には、両班(ヤンバン:身分階級の最上位に位置する身分)の家が軒を連ねており、そこに、一際大きな屋敷がある。

漢陽でも一、二を争う由緒ある家門で、姻戚関係を結びたいと思う家は多い。
ソウォンはそんな家で大事に育てられて来た。

絹のように白く滑らかな肌に映えるぷっくりと膨らんだ唇、黒々と艶のある長い髪。
そして、くりっとした大きな瞳が印象的な女の子である。


数日前、王室では世子(セジャ:王の世継ぎ)が婚礼を挙げる事が決定し、嘉礼都監(カレトガム:臨時官庁)が設置され、禁婚礼が布かれた。

世子より少し年上の両班の女性は必ず申告せねばならない。
だが、ソウォンは世子より一つ年下な為、申告する義務はない。

名のある両班の家は、権力を欲するあまりに世子より年下であっても娘を揀擇に申告する者も多いのも事実だ。


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