世子様に見初められて~十年越しの恋慕
第二話 世子嬪揀擇


「世子様っ、誠にご覧になられるのですか?!」
「ん」
「ですが、慣例では、初揀択(書類審査を通過した十数人の実技審査)の場に同席は許されておりません」
「だがそれは、憲宗王の二人目の王妃を選ぶ際に、同席したという史実があるではないか」
「ですがそれは、世子様ではなく、王様だったからで……。どうか、お考え直し下さいませ」

世子付きのコン内官(身の回りの世話をした去勢した官吏)が、初揀択が行われる場所へと向かうヘス(世子)を必死に引き留めている。
だが、そんな内官の言葉を無視して、ヘスは楽しそうに資善堂(ザソンダン:世子の居所)を後にした。

「ソ尚宮(サングン:女官)、初揀択に選ばれた娘達は、本当に名家揃いなのだな?」
「はい、世子様。王妃様付きの尚宮に確認致しましたので……」
「世子様。何ゆえ、急に揀択に興味を持たれたのですか?あんなにも婚礼を嫌がっていたではないですかっ!」

ヘスはまだ十歳。
だが、王室の婚礼は早婚であり、十歳であれば決して遅くはない。
立場上、政略結婚は当然な為、回避出来ぬ自分の運命を忌み嫌っていた。

 * * *

初揀択が行われる健順閣(コンスンガク:王妃の殿閣の後方にある使われていない殿閣)では、大妃(デビ:先王の正室、王の母)と王妃が、初揀択に訪れている良家の子女達に話をしているところだった。

「大妃様、母上。お話し中の所、失礼致します」
「おや、世子ではないか!何か、急ぎ事でも……?」

突然の世子の乱入に、大妃、王妃を始め、良家の子女達も驚きを隠せないでいる。
そんな中、世子は優雅な所作で大妃の隣に腰を下ろし、丁寧に会釈した。
子女達は、世子に礼を払うように一斉に顔を伏せた。

「大妃様。実は折り入って、お願い事がございまして……」
「願い事とな?」
「はい」

楽しそうな笑みを浮かべる世子をよそに、王妃は困惑の表情を浮かべた。


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