ただ、そばにいて。
第二章 悠斗

1)年上の彼女

 音楽が聞こえる。

 はじめは夢のなかでかすかに鳴っていただけだった。
 だが音は次第に大きくなり、気が付くと枕もとでぶるぶると振動しながら「起きろ、起きろ」と唸り声をあげていた。

 悠斗は腕を伸ばしてスマートフォンを引き寄せ、アラームの停止ボタンを押した。
 もう朝の六時か。
 だがあたりはまだ薄暗い。この部屋の厚い遮光カーテンは、冬の朝の訪れをさらに遅らせるものらしい。

 なにかやるべきことがあったはずなのに、頭も体も動くことを拒否している。
 悠斗はまぶたの上に腕をのせ、カーテンの隙間から漏れてくるかすかな光をも遮断した。


 自分の部屋とは違う景色。別のにおい。
 布団は清潔で、しかもあたたかだ。

 ヨーロッパに着いたんだっけ?
 いや、違う。僕だけが途中で引き返したのだ。
 店が火事になったと聞き、旅行をキャンセルして。

 そのあとどうしたんだっけ。
 思い出そうとしても頭が重くて動かない。
 この数日でいろんなことが起こり、心も体も疲れていた。
 とにかくいまはまだ、眠っていたい。
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