副社長には内緒!〜 Secret Love 〜
secret 1

嘘つきな笑顔


「水川さん、この書類を20部用意して会議室に頼む」
「はい、副社長」
ニコリと微笑んだその人から資料を受け取り会釈をすると、莉乃は表情無く自分のデスクに戻った。

水川 莉乃 24歳 大手1部上場IT企業 サイエンスコーポレーション 秘書室勤務。
ここ数年、パソコンやネットの普及で急激に業績と規模を拡大し、世界にも進出している企業だ。


会社は東京都心のオフィスビルの25階から35階にあり、副社長室はその最も上の35階にある。

大学卒業後、それなりの大学を卒業した為か、秘書室に配属になってしまった。
決して本意ではない。いつも莉乃はそう思っていた。

型を取ったような凹凸のないスーツに、引っ詰めてネットに入れただけの髪。
化粧っ気のない顔に、黒縁メガネ。

綺麗な人が多い秘書室の中で莉乃は異端な存在だった。

そんな莉乃が担当するのが、副社長の長谷川誠。
アメリカの工科大学を卒業したコンピュータのプロだ。

プログラミングの知識は突出しており、新しいシステムやセキュリティーを次々に開発し、事業の拡大をしている2代目だ。

それに加え、整った顔、綺麗な薄茶色の瞳、180㎝と高い身長。
モデルのようなルックスと、地位。
それを持て余すことなく発揮し、彼女は複数いるという噂の男だ。

父で社長の長谷川正幸がそんな誠の女癖の悪さを考慮し、莉乃を担当にした程だ。


「水川さん、後、この資料の作成も頼める?」
「……はい」

(なんで、親父はこんな冴えない人間を……)
誠は資料を渡しながらまじまじとパソコンに向かう莉乃を見た。

(女らしさのかけらもない地味なグレーのスーツを身にまとい、常に表情を変えない女。言われたことはきちんとこなすので文句はないが……)

誠は目を逸らすと軽く息を吐いた。

(そんなに俺は信用がないのか?仕事になれば秘書に手を出す様なバカな真似はしないのに)

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