日常に、ほんの少しの恋を添えて
自覚すると非常にやりずらい

新見さんの思い




 専務への恋心を自覚してから数日が経過した。
 ちなみにあの日専務に買ってもらったお弁当は、滅茶苦茶美味で、私は食べ物につられて専務が好きになったのかと一瞬錯覚してしまうほどだった。
 そして同じくあの日にもらったストールは、勿体なくて使えず、未だクローゼットで眠っている。

 上司を好きになるということは非常に厄介である。専務からの内線が鳴るだけで心臓がドキ―ッと跳ねてしまうし、あの綺麗なアーモンド形の瞳で見つめられると、話の内容はただの業務連絡なのに、それだけで緊張して呼吸を忘れる。
 今まで意識せずに一緒にいられたのが嘘のような変化に、自分でも戸惑ってしまう。

 ――いや、意識せずにいられたんじゃなくて、意識しないようにしてただけだった。と思う。今となっては。

 上司だから、と自分に言い聞かせて恋愛対象として見ないように見ないようにしてきたのに、私がお酒でやらかしてしまったり、あの日ショッピングモールで偶然会ってしまったりしたから……
 しかしやってしまったものはしょうがない。そして好きになってしまったのもどうしようもない。
 かくなるうえは専務にこの気持ちがバレないように今まで以上に気を付けなければ……

 こんなことばかり考える毎日を送る私を、退職する日が近づいてきた新見さんがランチに誘ってくれた。
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