国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
第二章 恋する人魚
翌日も島の潜る人々にとって、きつい一日だった。

一日一日、体力の減りが早くなっていく。

その様子がバレージにもありありとわかっているはずだが、潜るのを中断しようとしない。

ルチアはなんとか昨日やって来た人物に会って、話をしなければ……と考えながら、潜っていく。

海の青い色がだんだんと濃くなり、ルチアは何か塊のようなものを見た。

そこで息が続くなくなり、浮上する。

「っ……はぁ……はぁ……」

「ルチア! 遅かったから心配したぞ」

船で休んでいたジョシュが海面に顔を出して、泳いで近づいてきたルチアを引き上げる。
 
引き上げられた船底で荒い息をつき、ぐったりしているルチアにジョシュは瓶に入った水を飲ませる。

塩辛い海ではすぐに喉が渇いてしまう。

「大丈夫か?」

「だ、大丈夫……潜らなきゃ……」

「今日はもう無理だ。体調が悪そうだぞ」

「ジョシュ、わたしが出てきたところをもう一度潜ってきて」

ここを離れたら塊がただの岩なのか、探している船なのかわからなくなる。

「わかった。いいな? 休んでろよ」

ジョシュはルチアが顔を出した場所へ飛び込むと、海の中へ消えていく。

(もしもあれが沈没船だったら、みんなが楽になる)

ルチアはジョシュが上がってくるのを、まんじりともせず海面を見つめていた。
 
ジョシュが海面に顔を出して、船に近づいて来る。

「どうだったっ!?」
 
彼は船に上がると、疲れたように首を横に振った。

「巨大な岩みたいだった……」
 
ルチアの希望が一瞬にして消え、がっかりする。

「残念……」

「仕方ない」
 
散らばった小さな船が帆船に集まっていく。島の人々が帆船に乗り込むと、乗っていた船が上げられきちんと横に収まる。
 
バレージが疲れきっているみんなの元へつかつかとやって来た。今日も成果を上げられなかったと、バレージは苛立っている。
 
冷たい視線を座り込んでいるひとりひとりに送ると、踵を返して船内へ消えていった。
 
ひどい言葉や暴力を振るわれずに、そこにいた人々はホッと安堵する。 
 
昨日やって来た帆船はまだ停泊していた。

(どうにかして会わないと……)
 
ルチアは優美な帆船を眺めながら、早く交渉しなければと焦っていた。


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