国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
第六章 国王は人魚姫を愛す
翌日はユリウスの言った通り、朝食後、休む間もなくルチアの母くらいの女性がやって来た。

アローラがその上品そうな女性を紹介する。

「ルチアさん、ジラルドさまの母君のアデル・モーフィアスさまです」
 
黒髪を美しく結い、小柄で上品な女性がルチアの前まで来ると、優雅にひざを折りお辞儀をする。

「ルチアさま、アデルと申します。以後お見知りおきを」

「ル、ルチアです。あの、さまは……」
 
ジラルドの母といえば、侯爵夫人である。以前、アローラから、ジラルドは侯爵の子息だとルチアは聞いていた。

「さま」付けされたくなくて、アローラや侍女たちにも「ルチアさん」と呼んでもらってる。

「ルチアさまは奥ゆかしい女性なのですね。わかりました。ルチアさんと呼ばせていただきますわね」

「はい! よろしくお願いします」
 
ルチアは窓際の大理石で作られた丸いテーブルで授業を受けることになった。
 
夜会の始まりから、どんな招待客や、招かれている他国の話などで、午前中があっという間に終わった。
 
昼食を取りながら、夜会では女性は男性が食事や飲み物を持ってきてくれるまでなにも口に出来ないことを聞き、ルチアは呆気にとられる。

「そんな……美味しそうなお料理があったら、食べたくなります」

「貴族の女性はそういう風に教えられています。自分から食べ物や飲み物を取りに行くなど、恥ずかしい行為なのです。ですが、ご安心してください」
 
モーフィアス夫人はにっこり笑う。

「安心……?」

「ちゃんと陛下はわかっておりますから、ルチアさんがなにも食べられなかったり、飲めなかったりすることはありませんわ。陛下は女心にも敏感に察してくださる方ですから」
 
ユリウスが女心にも敏感に察すると聞いて、過去に女性がいたに違いないとルチアは感じ取ってしまう。


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