日常に、ほんの少しの恋を添えて
エピローグ
***


「では専務。失礼いたします」
「はい、お疲れ様」

 一礼して役員室を出る。すると背後になにやら人の気配が。

「ん……?」
「長谷川さん、すみません!! ちょっと教えていただきたいことが……」

 振り返ると、今年秘書課に配属になった新人の駒野さんが立っていた。

「はい。どうしたの?」
「あのっ、石鍋常務に会食のセッティングを任されたのですが、どこかいい店教えていただけませんか? 私この春上京してきたもので、まだこの辺りのお店とかよくわからなくて」
「あ、はいはい。それならよく会食で利用する店のリストがあるから、それを参考にするといいよ」

 秘書室にある棚から、店の情報などがファイリングされたものを取り出し、彼女に見せる。

「石鍋常務は日本酒がお好きだから、できれば取り扱う日本酒の種類が多いところなんか喜ばれると思うよ。ここなんかいいんじゃないかな? 料理も評判いいし、お座敷の数も多いし」
「はっ、いいですね! お料理もおいしそう。予約入れてみます! ありがとうございます、長谷川さん!」

 笑顔で駒野さんが私にぺこりと一礼する。そんな彼女に、私も微笑みかける。

「どういたしまして」
< 192 / 204 >

この作品をシェア

pagetop