寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
◇ 一章


「お姉様の熱はまだ下がらないの?」
「はい。昨日より下がったのですが、頭も痛むようで食事もおとりになりません」
「そう……冬の寒さで体が弱っているのかしら」
「お医者様はしばらくゆっくりと寝ていれば大丈夫だとおっしゃっていました。まずはよく食べて体力をおつけするようにと」

 侍女のリリーはそう言って頭を下げ、クラリーチェの部屋へと向かった。
 その手にあるいくつかの果物を、クラリーチェに食べさせるのだろう。
 セレナは侍女の背を心配げに見つめ、息を吐いた。
 ここ数日体調を崩している姉のことが気になるのだ。
 子供の頃から体が弱く、熱を出すことも多いクラリーチェは、この冬の寒さで体調を崩し、部屋にこもることも多かった。
 けれど、春が近づき、日中は明るい日差しが王宮内を照らしている。
 日ごとに暖かくなってきた。
 クラリーチェの体調もよくなればいいなとセレナは願う。
 セレナも姉の部屋に様子を見に行きたいのだが、セレナの警護を務めているミケーレが馬を用意して待っていることを思い出し、玄関へと急ぐ。
 途中、父がいる執務室に立ち寄った。
 部屋の前に立つふたりの騎士がセレナの姿を認めると、姿勢を正した。

「今から城下に出かけるから、お父様に挨拶をと思ったのだけど……お忙しいかしら」
「先ほど大公さまとお話をされていらっしゃいましたが、お帰りになりましたので、今は大丈夫かと思います」
「そう。じゃ、ちょっと入るわね」

 セレナは騎士にそう言うと、自分で扉を開き、執務室に入った。

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