寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
◇ 六章
 セレナのために両親がワインを用意していたと知って以来、セレナの心に変化が生まれた。
 クラリーチェを優先して考えなければならなかった父というよりも国王としての責任をわかっていたつもりでいたが、納得していなかった自分にも気づいた。
 テオの言葉によって、自分を哀れみ拗ねていた過去が遠いものに感じられ、心が軽くなったからだ。
 自分は両親にとって不要な子ではなかった事が、セレナはとても嬉しかった。
 ただ、長い間抱えていた両親への複雑な想いがさっぱりなくなったわけではなく、苦しんだ過去を帳消しにする事はできない。
 弱小国ランナケルドにとって、ミノワスターの騎士団に国を守ってもらう理由である川に水路を作り、それと引き換えにカルロという優れた王太子をクラリーチェの婿として迎える事は、セレナを傷つけるには十分だった。
 ランナケルドがミノワスターと対等に渡り合うための大切な川をクラリーチェのために差し出すほど彼女を大切にしているのだと知って受けた衝撃は未だ残っている。
 クラリーチェのためなら国益につながらない事も厭わないのだと、落ち込んだ。
 それもこれも国のためだとわかっているが、セレナの結婚には無関心だった事も相まって、素直に受け入れることができずにいた。
 それでも、セレナのためのワインのラベル一枚一枚に、彼女の象徴花であるバラの絵を両親とクラリーチェの三人で描いてくれたと聞けば、心は揺れ、家族に会いたいとも思えるようになった。
 あと一か月に迫ったクラリーチェとカルロの結婚式で会う事にもそれまでは躊躇していたが、今ではその日に間に合うよう毎日せっせと刺繍に励んでいる。
 三人を象徴する花を刺繍したハンカチを用意すると決め、一生懸命針を刺しているのだ。
 すでに両親のハンカチには手の込んだ刺繍が施され、それを見たラーラからは職人顔負けだと褒められた。
 残るはクラリーチェのハンカチだが、それももう少しで出来上がる。
 ランナケルドの王位継承者の象徴花はオレンジのガーベラと代々決まっていて、セレナはハンカチの四隅に丁寧に刺繍をしている。

「少し休憩してくださいませ。先ほどテオ殿下が様子を見に来られましたが、あまりにも集中していらっしゃるのでそのまま執務室に戻られましたよ」

 呆れた声でそう言うと、ラーラはテーブルにお茶の用意を始めた。
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