世子様に見初められて~十年越しの恋慕
第五話 命の恩人


「そろそろ参りましょうか」

漢陽へと帰る支度が整い、水蛇商団を発とうとしているソウォン達。
商団の行首達が見送る中、馬に跨り、市場通りを北へと向かった。

街外れに差し掛かり、辺りには木々が増えて来た。
昨日同様、山を幾つも越えねばならず、漢陽までの道のりは遠い。

少しずつ道が険しくなり、道向こうから岩を載せた荷車がやって来た。

「お嬢様、山側へ……」
「ん」

前を行くユルが、荷車とすれ違う際に崖から落ちぬようにと気遣う言葉を掛ける。
山道は狭く、荷車とすれ違うのがやっとだ。

山側に避けて、荷車が通り過ぎるのを待っていると。

「チョンア、ユルっ……。やっぱり、このままでは帰れないわ」
「えっ?!お嬢様、……まさか?!」
「えぇ、そのまさかよ」

ソウォンは手綱をきつく握りしめた。

荷車が通り過ぎ、辺りに人気が無いことを確認したソウォン。

「ユル悪いけど、採掘場の近くに怪しい小屋が無いか、調べて来て」
「小屋ですか?」
「えぇ。採掘した岩を粉砕して、製粉出来るような小屋」
「……回青がそこで出来ているという事ですね?」
「ん」

世子には首を突っ込むなと言われたが、一つ返事で納得出来るものではない。

「お嬢様、どうかお考え直し下さいませっ」
「ごめんね、チョンア。そんなに長くはかからないわ。数日遅くなっても大して変わらないでしょ?」
「そんな事はありませんよ!旦那様も奥様も、お嬢様のご帰宅を首を長くしてお待ちの筈です」
「………では、二日。今日明日調べて分からなかったら、諦めて帰るわ」
「…………本当でございますね?二日でございますよ?」
「えぇ、約束するわ」

盛大な溜息を零すチョンア。
好奇心が旺盛なのと同じくらい、頑固さも並外れている。

かくして、ソウォン達はまたしても寄り道する事となった。


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