溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
契約のキスを、もう一度


爽やかな風を感じながら、見事な五月晴れの青空の下で背伸びをする。凝り固まった身体をほぐすようにストレッチをしてから、ふうっと息を吐いた。

休憩時間にいつも飲んでいるお気に入りのカフェオレを一口飲み込んで、ふうっと息を吐く。

結婚式から、もうすぐ三週間が経とうとしている。結論から言うと、披露宴を兼ねた試食会は大成功だった。

自分が企画したものが形になって「おいしい」と言ってもらえる。それは、企画に関わるものにとってなによりの喜びだ。

だから、私が関わった、通常のメニューより柔らかくした介護食を食べたうちのじいちゃんと主任のおじいさんの「うまい!」の言葉を聞いたときは本当にうれしかった。

うちのじいちゃんはともかく、主任のおじいさんは桐島フーズの前社長、現会長なのだ。そんなすごい人に褒められたことに、心から安堵した。

とにかく、試食会は大成功だった。試食会はーー。

「お、浅田さんだ。そっちも休憩?」

その声に振り返ると、缶コーヒーを持った半澤主任がこちらに歩いてくるところだった。

「はい、ちょうど会議が終わったので一息。半澤主任もですか?」

「そう。適度な休憩は、作業効率をあげるからね」

隣に立ち、ニッと笑う半澤主任につられて私も微笑む。くしゃりと笑った顔が無邪気な少年のようで、とても今年三十歳を迎えるようには見えない。

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