結婚適齢期症候群
6章 幸せの裏側
翌朝の人事部フロアには、珍しくショウヘイが座っていた。

何やら、研修用の資料を急いで作らないといけないらしく、険しい顔で作業を進めていた。

いつになく真剣な目でデスクに向かっているショウヘイに見とれていたら、ふいに目が合った。

思わずサッとうつむいて目をそらす。

別に挨拶くらいすりゃいいのに、何やってんだろう。私は。

目なんか逸らしちゃったら余計気まずいし。

胸がきゅーっと痛くなった。

もう一度、視線を上げてみる。

作業する手を止めないまま、ショウヘイはまだこちらを見ていた。

わわわ。

恥ずかしい!

また目をそらした。

私と言えば、朝からパソコンを広げたっきり、全く仕事が進んでないや。

方や忙しくしているショウヘイを見とれて仕事ができてないなんて格好悪すぎる。

気を取り直して、パソコンに目を向けた。

と同時に、メールを受信した。

送信者は、・・・『澤村ショウヘイ』だった。

うわ。何のメール?

人のこと見てる暇があったら仕事すれば?とか冷たく書かれてんじゃないの?

顔が熱くなる。

つとめて冷静にショウヘイのメールを開いた。


『おはよう。今晩空いてる?』


嘘!

まさか、まさかのお誘いメールですか?

シェーンブルン宮殿のオルゴール効果??

体中が熱くなる。

モテ男で遊び人ショウヘイだから、きっとこれも単なる挨拶程度で、ひょっとしたら私の気持ちを弄んでるだけかもしれないわけで。

一気に浮かれそうになった自分の気持ちを一旦落ち着かせる。

そして、返信を書いた。

『残業がなければ。』

ん-。あまりに素っ気ないかしら。

『残業がなければ。あなたこそ忙しそうだけど大丈夫なの?』

一文付け加える。

これで、よし。

えい、送信!
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