恋するオフィスの禁止事項 ※2021.8.23 番外編up!※
さよならの抱擁


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その後、予想より早く三十分後に異動の通達が社内掲示板に掲載され、桐谷さんあてにはひっきりなしに内線がかかってきた。

それは今まで桐谷さんがお世話になった人たちから、すべてが栄転を祝うメッセージ。

このときばかりは、桐谷さんは全ての内線に出て、社内メールにも返信していた。

ひきかえ、私はまだ先輩におめでとうと言っていない。

先輩が異動の発表をしてから内線の嵐への対応が始まってしまうまでの三十分の間、先輩は課長やチームの社員にずっと捕まっていて、私と話す時間さえなかったのだ。

そこからまた三十分もすると、まだ止まない内線に先輩は徐々に疲れてきた様子でうなだれてしまっていた。

「水野」

「え?」

ふと名前を呼ばれると、先輩は自分の席の受話器を話中に設定し、席を立った。

「内線多過ぎてちょっと疲れた。休憩するから付き合って」

「ああ、はい……」

休憩室では誰かに会ってしまうと面倒だからと、先輩は私の手をひいて、空いていた会議室に入った。

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