結婚適齢期症候群
10章 不信感と嫉妬
朝の日差しがまぶしい。

電車の扉が開き、どっと人の波が溢れ出る。

いつもなら苦痛な満員電車や人波も、今朝は何の苦にもならず本社ビルに向かう。

昨晩はあれだけ心身共にエネルギー消耗してるはずなのに、その足取りは軽かった。

昨日の自分と今日の自分がこんなにも違うなんて。

私って、単純。誰にも見られないようにして一人で笑った。

ビルの回転扉を抜けると、後ろから肩を叩かれた。

振り返ると、朝から爽やかな笑顔のマキだった。

「マキ。」

そういえば、ショウヘイと一緒に帰るところを見られそうになって慌ててエレベーターで逃げた日からマキとは話してなかったっけ。

「なんだか久しぶりね、チサ。すっきりした顔してる。」

「それは、こっちのセリフよ。マキも朝から爽やかね。」

そう言うとマキはふふんとうつむいて笑った。

「今日、こないだの陶芸教室で作った作品もらいに行く日って覚えてた?」

あー、そういえば。

確か2週間前だっけ、陶芸教室に行ったの。

「なんだ、マキ。先生に会えるからそんな爽やかなの?」

「もちろん。だけどそれだけじゃないの。」

「今日ね、作品もらった後、先生と一緒にご飯食べる約束しちゃった。」

マキにしては珍しく頬を染めて恥ずかしがる少女のような顔をした。

「よかったじゃない。一歩前進だね。」

そう言いながら、自分も前進したことを改めて思い出して胸の奥がキュンとする。

「チサには話たいこといっぱいあるんだけどさ。とりあえず今日の夜は先生のために時間空けてるからまた今度ね。」

「はいはい、私は急がないわよ。今日はしっかり楽しんできて。」

浮かれ調子なマキがおかしくて、笑いながらマキの肩をポンポンと叩いた。

そして、開いたエレベーターに押し込まれるように乗った。


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