恋人は魔王様
5.理想の恋人
「ユリア。
俺の腕の中が好きなんだね」

頭上から響く低い声は軽く笑いを含んでいた。

私は思い切って瞳を開ける。


えええええっ!


私は思わず仰け反った。

いつの間にか、私の部屋に戻っていて、テーブルの傍で私はキョウに抱きついていたのだ。



っていうか、仰け反った人の喉元に、チャンスとばかりに舌を這わせるのヤメテっ!

「ひぁんっ」

思わず、色っぽい声が洩れて慌ててキョウの腕から抜け出した。


「このくらいで照れてどうする?」

私の動揺を愉しむように眺めながら、キョウが言う。

「どうもしませんっ」


「さっきの方が断然可愛かった。戻ろうか?」

キョウが指を鳴らそうとするので、私は慌ててそれを止める。

「ヤダっ」

私の髪は血に汚れ、足は痛いままだ。

キョウは手を掴んだ私を簡単に抱き寄せる。

私は警戒し、キョウを見た。漆黒の闇を閉じ込めたような黒い瞳が私を捉える。

「俺のこと、信じた?」

私はこくりと頷いた。

キョウが何かを呟きながら私の髪を撫でる。

ふわり、と、柔らかい光に包まれ、それが収まったら、私の身体はすっかり元に戻っていた。


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