海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜
【第5章】

涙の行方

卒業式が終わった後の帰り道、


私は瑞穂と梢に、相葉先生にフラレた事とキッパリ諦めようと思っている事を話した。


二人には今までの間、本当に沢山の事を話してきたけれど、


最後に相葉先生とどんな話をしたとか、自分からキスをした事は敢えて話さなかった。


準備室で過ごしたあの短い時間の出来事は、自分だけの大切な思い出にしたいと思ったから。


それ位、特別な出来事だった。


もちろん二人とも根掘り葉掘り聞き出そうとなんかしなかったから、とても有難く感じた。



仕事が始まるまでの約1ヶ月の休みの間、


私は自動車学校に通い、瑞穂や梢と3人でお泊り会をして過ごしていた。


3月中に大学がある街へと引っ越していく梢とは、一緒に過ごせる期間が誰よりも短かった分、とても貴重な時間になった。


逆に瑞穂は、同じ自動車学校で普通自動車免許を取ろうとしていたので、会える機会が沢山あった。



友達と過ごすその時間は、とにかく楽しかった。



楽しかったけれど…



意識的に、楽しもうとしていたのかもしれない。




心の中では、何度も、何度も、


『相葉先生の事は考えちゃいけない』


そう、思っていて。



ぼんやりしていても、何かをしていても、


無意識の内に考えている事は相葉先生の笑顔や、声。


手の温もりにタバコの香り、


一瞬のキスの事…。



『相葉先生に、会いたい』



そんな本心ばかりが、何度も何度も心の中に溢れて、


自然と涙が浮かんでしまう位、相葉先生の事ばかり考えていた―…
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