【短】きみに溺れる
Chapter.3


――さやかと暮らし始めたのは、半年前に、彼女の妊娠が発覚したからなんだ。


だけど俺がそのことを知ったのは、すでに中絶した後だった。


さやかは妊娠を俺に打ち明けることができず、黙って病院に行って堕ろしたらしい。


初めて知ったとき、俺は怒ったけれど

「あなたの口から堕ろせと言われるのが怖かった」

と泣く彼女を見て、それ以上は責めることができなかった。


俺はずっと、俺なりに彼女を大事にしてきたつもりだ。

でも心のどこかで、黒崎への想いが残っていて、それが伝わっていたんだと思う。


だからその出来事があってからは、彼女を不安にさせないように心掛けてきたんだよ。


ふたりで暮らすようになったのも、そういうわけなんだ――…





レンがそう打ち明けたのは、

私のマンションのドアを開ける、寸前だった。


まるで、すべてを了解した上で共犯者になる覚悟があるのかを、確認するように。


私は鍵穴に鍵を差し込んだまま、彼の話に耳を傾けた。

そして聞き終わったと同時に、手首をゆっくりとまわし、扉を開けた。



< 17 / 50 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop