吸血鬼の花嫁
第三章


意識が浮上して、私はぱちりと目を覚ます。

夢が霧散して消えていった。

長い夢を見ていたのに、よく思い出せない。哀しさが私を覆う。

眠っている間に泣いていたようだ。目尻がまだ、冷たく濡れている。

私は起き上がろうとし、体が動かないことに気付いた。

何かがのしかかっている。

ぼんやりとした頭で辺りを見回すと、青い髪が視界に入った。

そして、この重みの正体とその体の主を知る。

のろのろと、私はユゼの体を退かした。

ユゼは眠っているようで、ぴくりとも反応しない。

顔色は随分とよくなっていた。


私は、私に起きたことをどう受け止めていいのか分からなかった。

涙が零れる。

何に対して悲しんでいるのか分からないのに、ひどく悲しい。

体はぐったりと重く、所々に違和感があった。

なるべく自分の体を見ないよう、乱れた衣服を整え、ベットからずるずると降り立つ。

腕や足には意識を失った後についたらしい跡あった。


体を洗いたい。

ぼうとしたままの頭でそう思う。

体を引きずるようにして歩きだし、廊下へ出た。

廊下は静かで何の気配もしない。誰にも逢いたくなかったので、私はほっとする。


ふらふらしているうちに、館の外にある井戸の前に立っていた。

井戸から水を汲み、その水を頭からかぶる。


「……っ」


水の冷たさに声すら凍るかと思った。

当たり前である。

こんな季節に水浴びをするなんて聞いたことがない。

体を洗うことだけを考えていたら、そんな基本的なことも忘れてしまっていた。

これでは体を洗うどころではない。

水の冷たさによって、体中の熱が奪われていき、震えが止まらなかった。

惨めな姿に、また泣きそうになる。


なんとか館へ戻ろうと足を進めた。意識が朦朧とし始めている。

気を失うより先に館へ着き、私はそのまま倒れ込んだ。

遠くから駆け寄ってくる足音がする。

意識を失うほんの少し前、見慣れぬ男の子供が心配そうに私へ近付いてくる姿が視界を過ぎった。

知らないはずなのに、知っている気配がする。

子供は私の様子を見ると、慌てて誰かを呼びに走っていった。



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