キミは聞こえる
一章『新たな土地』

 新学期が始まって一週間が過ぎた。

 友達はいない、と思う。話しかけてくる生徒はいるけれど、友達と呼べるほど親しくはない。

 六列あるうちの窓から三列目、一番後ろの席で泉(いずみ)は小さくため息をついた。

(つまんない…)

 担当教師の解説を右から左に聞きながら泉は窓の外に目を向けた。

 どんよりした厚い雲が空を覆っている。日が差さないグラウンドは昼前だというのに薄暗く、自分の姿が窓にうつるほどだ。

 みんな上下ジャージで何人かは手をこすり合わせている。寒いのだ。
 屋内にいる泉ですらカーディガンを着ながらでなければ手が震えてシャーペンを握れないのだから外気温の低さは尋常ではないだろう。

 校庭の隅に四月半ばにしていまだ小さな雪山が残っている時点であり得ないと思う。

 この学校、鈴森南(スズモリミナミ)高校の校則に、ジャージの下にセーターなどの防寒服類を着てはいけないという死活問題にかかわる項目があり、生徒は体育中ジャージの下は半袖と下着のみという薄着を余儀なくされる。殺す気か。

 幸い、泉のクラスではまだ体育の授業はない。

 初の体育は来週予定されていて、運のいいことに来週からは天気が続き温度が上がるという予報だ。まぁそれでも雪山の表面を溶かすくらいでしかないのだろうけれど。

 近くにそびえる山々の頂(いただ)きには雲がかかり、その下に見える山の表面は白い。もちろん雪だ。

 夜になるとまだ山頂付近は零度を切ることもあるという。信じられない。

(帰りたい)

 心の底からそう思う。


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